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名古屋地方裁判所一宮支部 昭和34年(ワ)94号 判決

主文

一、原告(反訴被告)に対し、被告(反訴原告)両名は別紙目録第一記載の土地及び第三記載の建物を明渡すべし。

原告(反訴被告)その余の請求を棄却する。

二、被告(反訴原告)後藤みなの請求を棄却する。

三、原告(反訴被告)は被告(反訴原告)喜義に対し、別紙目録第二記載の土地が被告(反訴原告)喜義の所有であることを確認し、かつ、別紙目録第三の(2)乃至(4)及び(5)のA記載の建物を収去して目録第二記載の土地を明渡すべし。

被告(反訴原告)喜義のその余の請求を棄却する。

四、本訴及び反訴の費用は二分して、その一を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)両名の連帯負担とする。参加につき生じた費用は二分し、その一を参加人の、その余を被告(反訴原告)両名の連帯負担とする。

事実

原告訴訟代理人は

本訴につき

被告両名は、原告に対し、別紙目録第一記載の土地及び第三記載の建物を明渡し、かつ連帯して昭和三四年七月九日より同年一二月三一日まで一ケ月金六〇、五二一円宛、昭和三五年一月一日より同年一二月三一日まで一ケ月金八四、八四一円宛昭和三六年一月一日より右土地及び建物明渡完了まで一ケ月につき金一二四、四三五円宛の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの連帯負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

一、被告後藤みなは、被告浅井喜義の母である。

二、別紙目録第一記載の土地は被告喜義の、第三記載の建物は被告みなの各所有であったが、ともに一宮税務署より国税滞納処分として公売処分に附せられ、昭和三四年七月七日原告は買取って所有権を取得し、翌八日これが登記を為し、同時に被告らに対し該公売物件の引渡を求めたが応じない。

三、被告らは、ともに右物件を不法に占処しているものであるからこれが明渡を求める。

四、被告らの右不法占拠により原告は請求の趣旨記載のとおりの損害を受けているのでこれが賠償を求めるものである。

と述べ、

反訴につき、

反訴原告らの請求を棄却する。訴訟費用は反訴原告らの負担とする。との判決を求め、答弁として

一、一項について、別紙目録第三の(1)乃至(5)記載の建物が反訴原告みなの所有であつたこと、同原告主張のとおり移転登記が為されたこと、同じく(6)(7)記載の建物も、もと反訴原告みなの所有であったこと及び反訴原告主張のとおりの登記をしたことは認める。同原告主張の目録第三記載の建物は、いずれも同原告主張の国税滞納処分としての公売において、正規の手続により公売せられ、反訴被告が取得したものであるから同反訴原告の請求は全く理由がない。

二、二項について、目録第二記載の土地が、もと森川勘一郎の所有であったことのみ認め、その余の事実は争う。該土地は反訴原告みなが右森川勘一郎より昭和二五年一二月二二日名古屋地方裁判所昭和二三年(ワ)第二九三号調停調書によってこれを買得したもので、本件建物は総て反訴原告みなの所有地上に存在したものである(南部の土地は喜義名義の土地)が、狡知のみなは、国税滞納処分としての差押を免れるため、自己に名義変更の登記を故意に放置していたところ、昭和三四年一一月二八日反訴原告らは反訴被告から本件不動産につき執行吏保管の仮処分を執行せられたので、みなは即日第二記載土地を反訴原告喜義が右訴外人から昭和二五年一〇月二五日買得した如く虚偽仮装の登記をしたもので、無効であるし仮りに右みながその買取物を真実喜義に再譲渡し、中間省略登記により直接森川より喜義に移転登記をしたとしても、反訴被告の債権を詐害する典型的な法律行為で詐害行為として取消せらるべきものである。

三、三項について、目録第一記載土地がもと反訴原告喜義所有名義のものであったこと、同反訴原告主張のとおり公売処分により反訴被告が買得し所有権移転登記を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。反訴原告みなは国税滞納の常習者であるため、所轄税務署は精査の上、国税徴収法の規定(第四条の七)を発動し、已むなく公売を敢行し、反訴被告はこれを買取ってその所有権を取得したものである。行政処分は行政庁の取消の裁決又は裁判所の取消判決がないかぎりその効力を有し、公売代金の納付者はその公売物件につき所有権を取得するものであるから、反訴原告喜義の右主張は理由がない。

四、四項について、目録第三の(2)乃至(4)(5)のA記載の家屋が目録第二記載の土地上に、同じく(5)のB及び(1)記載の家屋が目録第一記載の土地に存することは認める。目録第二記載の土地は二項において述べたとおり昭和二五年一二月二二日名古屋地方裁判所で調停成立の結果訴外森川勘一郎より被告みなが買得し所有権を取得した。そして右土地及びその地上建物が反訴原告みなの所有でその地上建物が公売処分により反訴被告が競落してその所有権を取得したものであるから、反訴被告は第二目録記載の土地に対し法定地上権を取得したものである。従って適法に該土地を占有するものであるから、反訴原告の請求は失当である。

五、五項について、本件物件を占有し収益しつゝある人は、反訴原告両名であって、その占有者が逆に被害者である反訴被告に対し、不法占有者として損害金の請求することは理解しがたく、堪忍できないところである。

と述べた。

(立証省略)

補助参加人国の指定代理人は、原告を補助するため参加の申出を為し、その理由として、

本件において原告が被告らに対し引渡を求めている土地及び建物は、さきに補助参加人が被告らの所有物件を同人らの滞納処分のため公売に附し、原告に売渡したものであるが、被告らはこれが引渡を拒否しているのみならず、反訴をもって公売処分の一部無効を主張しているので、もし前記訴状において原告が敗訴したときは原告より補助参加人に対し、代金の返還または損害賠償の請求を受けることとなり、右訴訟の結果につき利害関係を有する。

と述べ、なお被告(反訴原告)らの主張に対し

一、反訴原告ら(以下単に被告らという)は、目録第一記載の土地は、被告浅井喜義の所有であったところ、国税滞納処分によって、公売に附されたものであるが、被告喜義は、国税を滞納したことがないのであるから、かかる滞納処分を受ける理由はない旨主張するが、右滞納処分は、旧国税徴収法第四条ノ七による第二次納税義務者として為されたものであって、何等違法のものではない。

即ち、同条ノ七は、納税人が国税を滞納した場合において、その財産の差押を免れるため、その親族その他の納税人と特殊の関係ある個人等に対し贈与し又は著しく低い額の対価をもつて譲渡した財産があるときは、当該納税人につき、滞納処分を行つても徴収しようとする国税等に不足すると認められる事情があるときに、これらのものが現に有する当該財産の価額の限度で、これらのものをして滞納にかかる国税等を納付させることができると定めているところ、本件の場合、納税人たる被告浅井みなは、一宮市伝馬町一丁目二番地において、自転車預り業を営んでいたが、昭和二五年以降同三〇年度にいたるまで所得税を滞納し、昭和三〇年八月二四日現在本税、加算税、延滞加算税、督促手数料及び滞納処分費合計一、三三八、九三〇円を累積滞納していた。訴外一宮税務署長は右滞納税金を徴収するため、昭和二九年八月二四日被告みなの財産を差押えたが、これら差押財産のみでは、滞納税金の徴収には不足すると認められたので、滞納者の他の財産を調査したが、同人名義の財産は発見することができなかった。しかしながら前示の土地は公簿上では被告浅井喜義が昭和二六年九月三〇日訴外森川勘一郎より買受けたことになつているが事実は被告浅井みなが被告喜義に該土地買受価額相当額の金員を贈与し、同人が該金員をもつて右土地を買受けて被告喜義名義に登記した。仮りに右金員の贈与を受けたものでないとしても右土地の贈与を受けて、被告喜義名義に登記したものであつて、いずれにしても被告浅井みなより被告喜義に対して金員もしくは不動産の贈与が為されたものなのである。そして被告喜義は被告みなの養子(且つ実子)であつて両者間では親子の関係にあるものであるから、もとより納税人みなとは所謂特殊の関係にあるものである。因みに被告浅井みなより被告喜義に金員又は土地が贈与されたと認定された経緯は、昭和二六年当時被告喜義は昭和三年二月三日生の若年であって、資産はもとより定職とてなく、専ら被告浅井みなの自転車預り業による収益によって扶養されており所得を得る何ものもなかったもので、現に昭和二九年分被告浅井みなの所得税確定申告には被告喜義を扶養家族として申告しておつた。又一宮税務署担当官が被告喜義について本件土地購入代金の出所を調査したところ、被告喜義の実父吉村喜作より借受けたものであるとの供述であったので、関係者を調査したが被告喜義の供述は全く真実性のないものであることが判明した。されば浅井家の生計の主宰者としての被告浅井みなによつて浅井家の生活が維持されており、相当の収益があつたものである以上本件土地の売買につき被告主張の如く訴外森川勘一郎より被告喜義が買受けたこととし、その旨の所有権移転登記が為されていても、右事情に徴すれば直ちにもつて被告喜義が買受けたものと認定することは妥当でなくかえつて被告喜義が被告みなより本件土地買受代金相当額の金員か又は本件土地そのものの贈与を受けたものと認定することが正鵠を得たものと断定してしかく第二次納税義務者を決定したものである。

かくて、一宮税務署長はこれらの事実に照らし、被告喜義を納税人浅井みなの第二次納税義務者と認定し、昭和三〇年八月二四日被告喜義に対し、納付通知を送達したのであるから、該処分は何ら違法の瑕疵は存しないものである。

仮りに右納付通知処分に瑕疵ありとするも、所轄税務署担当官において右事情を精査した結果、前叙のように第二次納税義務者を被告喜義と認定したものであるから、その瑕疵は少くとも明白なものとはいい難いものであつた。ところで被告喜義は右納付通知処分が前記昭和三〇年八月二四日に送付され、遅くとも、二五日には同人に送達されたにもかかわらず、旧国税徴収法第三一条ノ二所定の一ケ月以内には再調査の請求等は全くなされなかつた。

よつて、当該納付通知処分は異議申立期間の経過によつて関係人が争うことを許さない不可抗争力を有する有効な処分として確定したというべきである。従つて納付通知がこのように有効なものである以上これにもとずく滞納処分も亦適法なものであるから、被告が本件滞納処分の違法を前提とする本訴請求はここにおいてすでに失当である。

二、更に被告らは目録第三の(6)(7)記載の建物については、被告みなの所有ではあるが、滞納処分による公売がなされていないのであるから右建物は依然として被告みなの所有であるといわれるがその主張は失当である。

けだし、右建物は目録第三の建物の一部であると見るのが実情にそくしていると思われるが仮りにそうでないとしても右第三の(1)乃至(5)の建物に附加して一体となつたものであるから、この差押に対する効果は(6)(7)記載のものにも及ぶことは事理の当然である。のみならず(6)(7)の建物は本件公売処分の公告に際し、公簿上の表示のほかに実際上の表示を附記してこれを為したものであるから、特に利害関係人に損失を及ぼすおそれもなかつたものであるから、本件滞納処分に間然するところはない。

三、(1)被告らは、原告は目録第三の(1)乃至(5)記載の建物を被告喜義所有の同第一、第二目録記載の土地上に所有して不法に占拠していると主張するが、反訴状第一目録記載の土地についての公売処分はこれまで述べて来たところにより、明確な如く適法にして有効な処分であつて、原告会社に右第一目録記載の土地の所有権が公売処分によつて移転し、該地上に存在する建物が同じ公売処分により同会社の所有になつたのであるから権限なくして原告会社が右地上に家屋を占有するものではないのである。

(2)反訴状第二目録記載の土地については、被告らは同喜義の所有であり、同人が被告浅井みなより譲受け、その所有権移転登記は中間省略の方法により訴外森川勘一郎より被告喜義に直接なされた旨主張するが、それは滞納処分を免れるを目的とする通謀による虚偽意思表示によるものであつて、該土地の真の所有者は被告みなである。さすれば第二目録記載の土地とその上に存する建物とはともに被告みなの所有に属していたことになるから、右建物のみにつき公売処分が為されたときは法定地上権が成立するから、原告会社は該建物を右土地を適法に占有することになる。

(立証省略)

被告訴訟代理人は

本訴につき

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として

一項は認めるが、二項以下は否認する。

と述べ、

反訴につき

反訴被告は

一、反訴原告喜義に対し、目録第二記載の土地が、反訴原告喜義の所有であることを確認し、目録第三の(2)乃至(4)及び(5)のA記載の家屋を収去して右土地を明渡し

二、反訴原告喜義に対し、目録第一記載の土地が反訴原告喜義の所有であることを確認し、右土地につき昭和三四年七月八日附をもつて為した原因公売々却、取得者反訴被告なる所有権移転登記の抹消登記手続を為し、かつ目録第三の(1)及び(5)のB記載の家屋を収去して該土地を明渡し

三、反訴原告みなに対し、目録第三の(6)(7)記載の建物が、反訴原告みなの所有であることを確認し、該建物につき昭和三四年八月一三日附をもつて為した附属建物新築登記の抹消登記手続を為し

四、反訴原告喜義に対し、昭和三四年七月九日より一、二記載の土地明渡済に至るまで一ケ月金三一二、二四九円宛の割合による金員を支払え

五、反訴に関する訴訟費用は反訴被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求め、反訴請求の原因として、

一、反訴原告みなは、目録第三の(1)乃至(5)記載の建物を所有していたところ、国税を滞納したため、右建物に対して滞納処分を受け、公売の結果昭和三四年七月七日反訴被告がこれを買受けてその所有権を取得し、翌八日名古屋法務局一宮支局において、その旨の登記がなされた。反訴原告みなは目録第三の(6)(7)記載の建物を建築し、爾来未登記のまま所有して居たのであるが、該建物は右公売処分の目的となつていなかつたから、反訴被告はこれを買受けて居ないのに、反訴被告はこれが未登記であるのを奇貨として不法に仝年八月一三日仝支局において該建物が目録第三の(1)乃至(5)記載の建物の附属建物として新築された反訴被告所有の建物である旨の登記をした。よつて、反訴原告みなは反訴被告に対し、目録第三の(6)(7)記載の建物が反訴原告みなの所有であることの確認を求めるとともに右附属建物新築登記は法律上無効であるからその抹消登記手続を求めるものである。

二、反訴原告喜義は、反訴原告みなが昭和二五年一二月二二日訴外森川勘一郎から買受けた別紙目録第二記載の土地をその後間もなく同訴外人の同意を得て反訴原告みなから買受けてその代金の支配を完了すると同時にその所有権者となり、昭和三四年一一月二八日前記支局受附第一一二八五号をもつて訴外森川から反訴原告喜義が直接所有権を取得した旨の登記(中間省略)をした。

三、反訴原告喜義は昭和二六年三月二二日森川勘一郎から別紙目録第一記載の土地を買受け、昭和二九年四月一五日その旨の登記を経て所有していたところ、国税滞納処分による公売処分に付された結果反訴被告が昭和三四年七月七日これを買受け、翌八日同支局受附第六五六五号をもつてその旨の所有権移転登記が為された。しかし反訴原告喜義は国税を滞納した事実なく右滞納公売処分は反訴原告みなの滞納国税について為されたものであるから、法令に違反する無効なものである。よつて反訴原告喜義は反訴被告に対し、右土地が反訴原告喜義の所有であることの確認を求めるとともに右公売処分による所有権移転登記の抹消手続を求めるものである。

四、目録第三の(1)乃至(5)の建物は、一項記載のとおり反訴被告が所有しているがその敷地である目録第一、第二記載の土地の上に存して該土地を占有しているのであつて、反訴被告の該占有は反訴原告喜義に対抗しうる何らの権限のない不法占有である。よつて反訴原告喜義は反訴被告に対し目録第三の(1)乃至(5)記載の建物を収去して目録第一、第二記載の土地を明渡すべきことを求める。

五、反訴原告喜義は反訴被告が目録第三の(1)乃至(5)記載の建物を所有して、反訴原告所有の目録第一、第二記載の土地を不法に占有することにより、昭和三四年七月九日以降目録第二記載の土地については月額金二五〇、八九九円、第一記載の土地については月額金五三、三四〇円、合計金三一三、二四九円の割合による賃料相当の損害金を受けているから、これが支払を求めるものである。

六、反訴被告の抗弁は否認する。

と述べた。

(立証省略)

別紙

目録

第一

一宮市伝馬通一丁目四番の一

一、宅地     六坪

同所一丁目二番

一、宅地     四九坪四勺

同所一丁目二番の二

一、宅地     二〇坪七勺

以上別紙図面の(二)

第二

一宮市伝馬通一丁目二番の四

一、宅地     四一坪六合三勺

同所二番の八

一、宅地     一合一勺

同所四番

一、宅地     七坪

以上別紙図面の(イ)

第三

一宮市伝馬通一丁目二番、同番の二、同番の四、同番の五、四番の一、同番の二所在

(1) 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅    建坪三坪

別紙図面の(1)

(2) 木造瓦葺平家建店舗及居宅       建坪五坪四合六勺

別紙図面の(2)

(3) 木造瓦葺平家建店舗及居宅       建坪三坪六合四勺

別紙図面の(3)

(4) 〃                  建坪一〇坪六合六勺

別紙図面の(4)

(5) 〃                  建坪三三坪六合八勺

別紙図面の(5)

A 右建物のうち北寄        建坪一二坪六合の部分

B 右建物のうち南寄        建坪二一坪八勺の部分

(6) 木造瓦葺平家建店舗       建坪二〇坪四合

別紙図面の(6)

(7) 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建便所 建坪五合

別紙図面の(7)

図面

〈省略〉

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